あだち充と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは野球漫画だろう。
しかし、もし「野球以外のあだち充作品で何を読むべきか」と聞かれたなら、迷わず挙げたいのが『虹色とうがらし』だ。
本作は、剣と旅、そして人間関係を描いた異色作でありながら、間違いなく“あだち充らしさ”が詰まった一作である。
『虹色とうがらし』とは?
『虹色とうがらし』は1989年から連載された、時代劇風ロードムービー漫画。
血のつながらない七人兄弟が、それぞれに事情を抱えながら旅を続けていく物語だ。
舞台設定こそ剣劇だが、物語の中心にあるのは
人と人との距離感、すれ違い、そして静かな情。
ここに、あだち充作品の本質がある。
野球がなくても“あだち充”は成立する
『タッチ』や『H2』のような試合描写はない。
それでも『虹色とうがらし』を読めばすぐに分かる。
・無駄のないセリフ
・説明しすぎない感情表現
・一コマの沈黙が雄弁に語る演出
これらはすべて、野球漫画と同じ文法で描かれている。
舞台が違うだけで、作家性はまったく揺らいでいない。
七人兄弟それぞれが抱える“事情”
この作品の魅力は、兄弟それぞれが主役になり得る構造にある。
誰か一人を持ち上げるのではなく、
全員が不完全で、どこか影を抱えている。
そのため読者は、
「このキャラが好き」
「この関係性が刺さる」
と、自分なりの視点で物語を受け取ることができる。
これは、あだち充作品全般に共通する強みだ。
静かな余韻が残るラスト
『虹色とうがらし』は、派手なクライマックスを用意しない。
しかし読み終えたあと、
じわじわと作品が心に残る。
説明されない感情、語られない未来。
それらを想像する余白こそが、この作品最大の魅力だろう。
こんな人におすすめ
- 野球漫画以外のあだち充作品を読みたい人
- 人間関係を丁寧に描く漫画が好きな人
- 静かな読後感を味わいたい人
一方で、テンポの速い展開や派手さを求める人には向かない。
だからこそ、本作は刺さる人に深く刺さる名作だ。
気になった方は、まずは第1巻から読んでみるのがおすすめです。
作品の空気感や登場人物の関係性は、1巻を読むだけでも十分に伝わってきます。
まとめ|“通好み”で終わらせるには惜しい一作
『虹色とうがらし』は、
あだち充という作家の懐の深さを知るための重要な作品だ。
もし『タッチ』や『H2』を読んで心に残った経験があるなら、
この作品もきっと、静かに寄り添ってくれる。
今だからこそ、あらためて手に取ってほしい一冊である。


コメント